2015.04.21

インタビュー:やひろさん

所属:出版社勤務

役職:編集者

年齢:25歳

セクシュアリティ:好きな人の性別は問わない

インタビュー日:2015年04月15日

やひろさん

ヤヒロ

出身歴: 札幌に生まれる。5歳までを神奈川、5歳から8歳をアメリカで過ごし、帰国後再び神奈川へ。11歳以降は東京で育つ。大学時代に一年間イギリスへ留学。現在、東京都在住。

LGBTの大人の姿を見て、勇気づけられた

「あれ、自分は女の子が好きなのかな?」と最初にふと思ったのは中学校3年生の時でしたが、当時はあんまり深く考えていませんでした。

このことを深刻に考え始めたのは高校2年生で、とある年上の女の子に惹かれている自分に気づいた時からです。

”レズビアン”という存在については本やコミックエッセイで読んだことがありなんとなくは知っていましたが、「自分の周りにLGBTの人はいないし、親には相談できないし、そもそもこれは恋愛感情と呼べるものなのかもわからないし、誰かに相談してみたいけど嫌な反応をされたらどうしよう…」となどとぐるぐる悩んで、しばらくは誰にも言えませんでした。

しかし私が通っていた高校には、「社会生活」という社会問題や人権問題を学ぶ授業があり、その授業の中でセクシュアルマイノリティは毎年取り上げるテーマのうちの一つとなっていました。
自分のセクシュアリティに関する悩みがピークに達していた高校2年生の時にちょうどその授業を受講し、LGBTの方々の講演を聴く機会がありました。自分のセクシュアリティを受け入れ、オープンにして生きているLGBTの大人の姿を、テレビを通じてではなく間近で見ることができたのは、当時の自分にとって大きな出来事でした。

それがきっかけとなり、仲の良かった友人や、その授業の担当の先生に少しずつ悩みを話すようになりました。
授業の担当の先生は真摯に耳を傾けてくださったり、LGBTに詳しい卒業生を紹介してくださったりと、とても力になってくださいました。

好きになった年上の女の子には、勇気を出して、告白兼カミングアウトの手紙を渡しました。
「やひろのことを気持ち悪いとは全く思わないし、友達として大好きだから、あなたがつらくなければこれまで通りの付き合いをさせてほしい」
と返事をもらえたことで、”同性に惹かれる”という自分のセクシュアリティを受け入れることができました。

 

はじめの数年間はレズビアンだと認識していましたが、途中から惹かれる対象が必ずしも女性だけではないことに気付き、現在は「好きな人の性別は問わない」「パンセクシュアル」という言葉を使って自分のことを説明しています。

 

学生時代の経験を通じて得たものを、胸を張って伝えたかった

私は学生時代、LGBTのイベントのスタッフをしたり、LGBTの出張授業のスピーカーをしたり、ウガンダのLGBTに関するドキュメンタリー映画の字幕翻訳制作に関わったり、留学先のイギリスでもプライドパレードや大学のLGBTサークルに参加したりと、自分の時間の大半をLGBTの活動に費やしていました。

いざ企業に提出する書類を前にして、あまりにもLGBT漬けだった学生生活についてどこまで書こうか迷いました。
しかし私にとってこれほどまでに「学生時代に頑張ったこと」はなかったので、就活の場ではLGBTのことばかりを押し出すことも、かといって隠すこともせず、必要に応じて書類選考や面接でカミングアウトすることにしました。

自分のセクシュアリティを就活の際に隠さないでおこうと思った一番大きな理由は、「この経験を通じて、年代・国籍・セクシュアリティを問わずたくさんの大事な人々と出会い、強固な人との繋がりができて、幸せな経験も辛い経験もして、一生携わっていきたいことに出逢えた」と胸を張って伝えたかったからです。

 

面接でLGBTのことを話題にした際、面接官の反応には様々なものがありました。

例えば、「今話題になっているよね」と好意的な反応を示してもらえることもあれば、”セクシュアルマイノリティ”という単語を口にしただけで「え、そんなことに興味があるんですか…?なんでまた…」と、否定的な態度を取られたこともありました。そういった否定的な反応にひどく疲れてしまうこともあったので、LGBTについて話すことでかえって自分が消耗してしまうのあれば、無理に話さなくてもいいよう、別の話のネタを複数用意しておいて自分の精神力をコントロールしながら就活を進めていくのも大切だと思います。

 

就活をはじめた頃は旅行/ホテル業界を志望していましたが、就活をする中でだんだんと「情報を発信する仕事に就きたい」と思うようになり、出版社の入社試験を受けました。
”自分が出してみたい本の企画を3つ書く”という入社試験の課題に、LGBT関連の企画を書いて提出し、面接では自分のセクシュアリティについても伝えました。

結果的に2社から内定を頂いたのですが、編集の仕事をやりたいと思ったことと、かつて自分が高校生の時に読んで大きな勇気をもらった『カミングアウト・レターズ』(RYOJI+砂川秀樹著)のように、誰かの支えとなって心に残り続ける本を作る力をつけたかったため、現在の会社に入社し書籍編集者として働いています。

 

「プライドパレードを一緒に歩いてみたい」と言ってくれた同僚たち

入社する前は会社の人にどこまでカミングアウトするのか迷っていたのですが、様子を見て伝えていきたいと思っていました。

現在はほとんどの人にカミングアウトをしていますが、教育や社会問題をテーマとした書籍を多く刊行している出版社なので、風潮も手伝ってか、ありのままで受け入れられています。
特に、年の近い同僚たちには本当に恵まれました。彼女たちには早い段階で自分のことも話していたので、入社直後の飲み会で、まだカミングアウトしていなかった先輩から「やひろさんは好きな男性アイドルとかいないの?」と訊かれて少し言葉に詰まっていた時に「あ、女性でもいいですよ!」とさりげなくフォローを入れてくれたりして、その気転の良さに助けられました。
普段もLGBTのニュースを話題にしてくれたり、一緒にプライドパレードに参加したいと言ってくれたりしています。

 

LGBTの友人が「職場の人がホモネタやオカマネタでよく盛り上がっているから嫌な気分になるし、とてもカミングアウトなんてできない」と言っているのをよく聞いていたので、自分のことを包み隠さずいられる職場環境はとてもありがたいです。

自分らしく居られる安心感は仕事へのモチベーションにも大きく関係していると思います。

 

誰かの生きづらさに寄り添う本を作りたい

会社としてもLGBTのことはテーマとして積極的に扱っていきたいと掲げており、早く編集能力を身につけて関連書籍の出版に関わりたいです。

また、LGBTだけではなく、もっと広く捉えた“生きづらさ”に寄り添う本を作りたいと、最近は思っています。
というのも、この仕事に就いて新刊の企画会議に出たり書店でリサーチをする中で、多様な性のことと同じくらいか、あるいはそれ以上に、社会での認知度の低さや情報の少なさから当事者が孤立しがちな問題というのは実は他にもたくさん存在することを知ったからです。
その本を読んだ人が安心感を得たり、自分自身を説明できるような言葉と出会えたり、痛みを少しでもやわらげたり、自分自身や身近な人を受け入れられたり、「自分らしくいていいんだ」と思って生きるきっかけとなるような、そんな文章が書かれた本を作りたい。

いつかこれを実現させるためにも、人の痛みに敏感に気付けるような人で在りたいと思うし、そのような意識を持った上で仕事に取り組んでいきたいです。

 

まだこの仕事を始めたばかりなのでしばらくの間は書籍の分野で頑張るつもりですが、何らかのかたちで情報を提供する仕事にはずっと携わりたいと考えているため、広くアンテナは立てておきたいと思います。
海外のLGBT関連のニュースサイトを見たり、留学先で手に入れたLGBT関連の資料や書籍を読み返すのが好きなので、その翻訳プロジェクトに関わるのが現時点での密かな夢です。

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