2016.07.15

インタビュー:大賀一樹さん

役職:臨床心理士・スクールカウンセラー

セクシュアリティ:Xジェンダー

インタビュー日:2016年06月22日

大賀一樹

いじめられるのは嫌だったので、自分を偽って振舞っていました

保育園に入る前、2、3歳くらいの時、周りから自分の行動について「おかしい、オカマっぽい」と言われて、自分は既存の男性の枠には入らないんだなぁと意識するようになりました。そういうふうにいじめられるのは嫌だったので、幼少期から10代にかけて、自分を偽って振る舞うようにしていました。

 

中学校3年生の時に『3年B組金八先生』というテレビドラマに性同一性障害の役柄が登場したのを見て、性別に違和感があるというところにとても共感しました。その頃は性的指向と性自認の区別がよくわかっていませんでした。だから、男性を好きになった自分は女性じゃなきゃいけないのかな? と思って、16歳くらいからいわゆる異性装、女装をしていました。周りからは変な人だと思われていましたが、そう思われていたほうが、むしろ深くプライベートに侵入されないとわかったので、そういうふうに自分を守っていました。

 

Xジェンダーという言葉を知って「ああ、これだな」

18歳になって上京して、東京で大学生として過ごし始めたら、髪を染めていても、メイクをしていても、「ちょっと個性的だけどそういう人もいるよね」くらいの感覚で受け入れられるようになりました。

それでも、自分の性自認や性的指向については、男性として男性が好きなのかもわからないし、そもそも男性なの? やっぱり性同一性障害なのかな、とか悩んでいて、大学2年生のときにセクシュアルマイノリティのインカレサークルに入りました。

そこで初めて同い年のFtXの方と出会い、Xジェンダーという言葉を知って「ああ、これだな」っていうふうに落ち着きました。それが21歳の頃です。

サークルの中で、自分はXジェンダーなのかもしれないと打ち明けて受け入れてもらえた経験があったので、自分に自信を持てるようになりました。

それまではやりたいことも決まっていなかったのですが、自分のことについて考え始めたのをきっかけに心理学に興味を持つようになりました。そして、大学院に進んで臨床心理学を学びました。そこで修士課程の同級生や先生方に、サークル以外で初めてカミングアウトしました。自分の性自認について周囲に知ってもらった上で、Xジェンダーや性自認についての研究を2年間していました。

 

2つの面接でカミングアウトした結果……

臨床心理士という専門職での就活は社会人の転職に似ていて、スーツなどもリクルートスーツのような男女ではっきりと分けられたものではありません。私の場合は企業や、教育委員会などの行政、NPOなど10個の団体を受け、そのうちの最初の2つでカミングアウトをしました。

1つめは教育センターの面接でした。カミングアウトしたら、「カミングアウトしたこと自体は面接に影響はないし大丈夫だ」と言ってもらえたのですが、「就職した場合に仕事先となる学校現場では偏見もあり、保護者の対応もあるので言わないほうがいいですよ」とも言われました。

私のためを思って言ってくれたのかもしれませんが、「カミングアウトしないほうがいいよ」という助言はとてもネガティブなものに感じられました。

 

2つ目は企業でした。面接のときに志望動機や職歴について話す中で、「もっと個性的なところはないのか」と聞かれて、その流れでセクシュアリティの話をすることになりました。ただ、この企業の場合も、私は自分の強みとしてセクシュアリティの話をしたのですが、あまり伝わらなかったようでした。

結局、その会社で働くことになったのですが、新人研修のときに講師の方が「あなたは男性だから女性のパートナーがいるよね」という前提で話をしたことがあったり、その会社にはジェンダーやセクシュアリティに関する知識のある臨床心理士が他にいなかったりということがあったので、会社でLGBTについての研修をしてもらいました。

 

〝生きづらさ〟を強みにしたい

現在は、いくつかの企業や学校で非常勤の臨床心理士として仕事をしています。
LGBTだけでなく、色々なマイノリティの話をするように心がけています。

自分の性自認やセクシュアリティはとてもマイノリティ性が高いもので、その「普通」に当てはまらない生きづらさの経験を強みにしていきたいと思っています。
でも、ブラックな職場ではそれはおそらく生かせません。そこで、非常勤として複数の仕事を掛け持つことで、1つの職場でもしうまくいかなくても他の職場でチャンスを見つけられるようにしています。

また、LGBT向けのキャリアカウンセリングも行っています。カウンセラーと一対一で、「自分は本当はなにがしたいんだろう」、「自分らしくいられる状態ってどんなものだろう」といった話をする中で、自分自身について知ってもらうことが目的です。

カウンセリングの中では、スーツや履歴書の性別欄の問題、カミングアウトをしても受け入れてもらえる企業がないという問題が多く聞かれます。「自分の性自認やセクシュアリティのせいで選考から落ちるかもしれない」とネガティブにならないための支援が必要だと思っています。
自分らしく生きることに難しさを感じたときは、まず信頼できる人を1人でもつくって、その人と話す中で就職について、そして自分自身の人生について考える時間を作ってみてほしいです。

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