2015.05.22

企業の取り組み:野村證券株式会社

インタビュー日:2015年04月21日

野村證券株式会社

【インタビュー】
*東由紀さん(人材開発部 ダイバーシティ&インクルージョン・ジャパンヘッド エグゼクティブ・ディレクター)
*北村裕介さん(人材開発部 ダイバーシティ&インクルージョン)
*コニー・リウさん(野村国際(香港)有限公司 ダイバーシティ&インクルージョン)

 

Q、御社のLGBTへの取り組みを教えてください。

東さん:野村證券株式会社は今年で設立90周年を迎え、社員数は約2万6千人、国内では1万5千人ほどが働いています。2008年にリーマン・ブラザーズの欧州とアジア拠点の部門を継承し、その時にダイバーシティ&インクルージョンというコンセプトが入ってきました。海外のビジネスや、中途採用や外国人の採用が増え、ダイバーシティ&インクルージョンという考え方が重要だということで引き継がれました。

LGBTへの主な取り組みとして、3つの取り組みを行っています。
1つ目に、2010年に社内の倫理規定を改定し、人権の尊重の項目の中に、「性的指向」と「性同一性」に関する記載を入れました。これは、グローバルの規定なので、海外の野村證券株式会社で働いている方も同じく適用されます。

2つ目に、ダイバーシティ研修を実施しております。例えば新卒の採用研修や、中途採用の研修、管理職の研修、新たに管理職になる人への研修などで、1時間のダイバーシティ研修があり、必ずLGBTについてのスライドを入れています。これにより、野村の管理職の人、新たに管理職になる人には必ずLGBTについて説明しているという状況です。また、今期から初めて、全管理職向けに研修を実施することになりました。

3つ目として、社員ネットワークの活動をしています。リーマン・ブラザーズで活動していた3つの社員ネットワークが引き継がれたのですが、1つが女性のキャリアを考えるネットワークでWoman in Nomuraの頭文字を取って「WIN」、もう一つが「ライフ&ファミリー」というネットワークで健康、育児、介護の3つをテーマにしています。最後に「マルチカルチャー」という観点から、多文化と世代間コミュニケーションとLGBTAをテーマにしたネットワークがあります。当社はアライが中心に活動しているので、アライのAを入れてLGBTAと表現しています。具体的には、社内に向けての活動と社外に向けての活動と大きく2つの活動をしています。

Nomura D&I

Q、ダイバーシティ研修ではどのようなことをされているのですか?

東さん:LGBTに関して、趣味嗜好の問題であるとか、仕事とは関係ないなどと誤った認識を持っている人は、残念ながらまだ少なくありません。そのため、研修ではなぜ職場で取り組まないといけないのか、という話をしています。例えば支店長研修では、部下を連れてお客様と商談したときに雑談の中で、「彼はもう30歳になるのに、まだ彼女もいないんですよ、誰か素敵な人を紹介してくれませんか?でないと、コッチになっちゃうと思いませんか?」という会話があった場合、そのお客様がLGBTだったら?と、ビジネスのケースに置き換えて話しをしています。マニュアルやメディアでは当社はダイバーシティに力を入れていると紹介していただいているのに、「口だけだな」と思われて会社の信用をなくしてしまいますよね、と。他にも、お客様の投資についてアドバイスをする際、お客様が典型的に男性、もしくは女性で、結婚して、何歳ぐらいで家を持ち、子どもが生まれ、というシナリオを想定しながらお話してしまうと、様々な形の家族やライフスタイルに対応しきれず、お客様のニーズをとらえた適切な投資の話はできないですよね、という話をしています。LGBTだけではなくダイバーシティ研修に一般的に言われるケースですが、具体的にビジネスにどう影響するのかのように、ビジネススキルの一つとして伝えるようにしています。

ダイバーシティ研修は、満足度は高いです。中途採用の研修の感想だと、「野村はグローバルに拡大しようとしていて、そういった会社でダイバーシティの取り組みをしているのを知り、これから働くことに意欲を持ちました」や、「まさか野村でLGBTの活動をしているとは思ってもみませんでした。本当にグローバルに活動しようとしているんだと感じました」という感想や、管理職研修では「ダイバーシティを聞いたことがなかったのですが、はじめて知ることができてよかったです」という感想もありました。これまでネガティブな意見は見たことがないですね。企業研修は会社の基本方針として実施しているので、管理職として持っていなければならない知識としてダイバーシティの取り組みをしていることも一因なのかもしれません。

 

Q、LGBTAネットワークの活動について教えてください。

北村さん:社内に向けては、ちょうどいまLGBTウィークを実施しており、大手町と日本橋の社員食堂で二週間ほど、ダイバーシティ&インクルージョンのバナーを立て、「アライになろう!」というパンフレットや野村の記事が掲載されている『TOKYO人権』の冊子、アライであることを表明する虹色の卓上コーンなどを置いて、LGBTの啓蒙活動をしています。また、会社のPCにアライマークをつけるよう呼びかけています。

東さん: 社内に向けての取り組みとして、LGBTウィークは4年前から実施しています。また、野村グループのウェブサイトでアライの活動を紹介しています。今年の1月に野村グループのトップページに「野村グループの最大の財産は人材です」という文言を出しました。そこに女性や、グローバルなどの項目があるのですが、一つとして職場と多様性というページをもうけていて、そこでアライの人たちの写真や活動の紹介をしています。実際にどういう人たちが行っているのかわかると思うので、やはり顔が見えた方が良いと思っています。

社外にむけた取り組みは、LGBTファイナンスと共に活動をしています。そこで、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭に協賛をし、先日のLGBT学生セミナーでは当社の社員ネットワークのリーダーでアライの一人が登壇しました。今年も東京レインボープライドに協賛し、LGBTファイナンスでフロートを持ち、220名の社員や家族が参加しました。また、レインボーウィークに認定NPO法人グッド・エイジング・エールズが主催したアライ向けのイベントでは、私が企業のアライの取り組みについて紹介しました。レインボーウィークは「LGBT当事者のイベント」というイメージが強いので、「アライ初心者」の方は参加していいのか分からないと思います。でも、LGBTの大切な人がいて、何かしたいと思うアライの人が集まって話す会があると、アライの人々も参加しやすいだろうなと思います。

野村證券株式会社_LGBT就活web_写真2

Q、お客様からのご反応は、いかがですか?

東さん:私は、ダイバーシティ担当者になって1年半ほど経つのですが、それまではリサーチの部門で、LGBTAネットワークのリーダーを任されていました。はじめたころは、お客様から何か言われるのではないかとかいう心配があったと聞きます。しかし、1年半ほど前から活発に活動していますが、苦情や否定的な意見はこないですね。お客様からもこないです。店舗数が全国150店、国内に社員が約1万5千人いるにも関わらず、ゼロです。

北村さん:4年前に東洋経済や週刊ダイヤモンドがLGBTについて取り上げたことや、最近でも日経新聞などで取り上げられているので、やはりお客様や株主の皆様の関心は高くなっているのではと感じています。

 

Q、社内でオープンにはたらいて、いかがですか?

北村さん:入社してまだ一ヶ月しか経っていないのですが、部署全体にカミングアウトをしました。野村にアライの方が多いのは知っていたので、入社後、「ここでカミングアウトしないでどこでやるんだ」と思いカミングアウトをしたのですが、本当に味方が多くて働きやすいです。カミングアウトの後、同じ部署でアライマークを会社のPCにつけてくれる人が増えましたね。
LGBTウィークを進めるには、様々な部署へ許可を取る必要があり、LGBTAネットワークの人と一緒に活動をしているのですが、この間も「自分の部署の部長へ報告にいってきます!」と、自発的にアライの方が言ってくれまして。そのアライの方2人が「LGBTとはこういうもので!」と説明している姿を自分は後ろから見て、泣きそうになりました。東の他にも心強いアライの味方が多くいますので、野村はすごく働きやすいです。

自分は面接のときもカミングアウトをしたのですが、現在の上司も、「何かミスがあったら俺が全部カバーするから」といってくれます。これは頑張らないといけないなと思いましたね。余計なことに悩まなくて済みますし、仕事にも集中できます。

野村に転職した理由はLGBTに関して取り組みをしているということも一因としてあります。また、今回ダイバーシティ&インクルージョンの担当の枠で入社しましたが、LGBTだけでなく女性の活躍推進やマルチカルチャーなど他の多様性についても推進しているということがとても魅力的です。LGBTについては、アライの方が活動的なので、自分は逆に積極的に関わらなくてもいいのではと思ってしまうほどです。(笑)ほかの分野でも自分がアライになって活動を推進していきたいと思います。

東さん:LGBTだけに限らず、なぜダイバーシティを会社が推進するかというと、社員が会社へのロイヤリティをあげて、より会社に貢献したいと思うようにするためです。エンゲージメントを強めるという言い方をしますが、社員が会社のためになにかしたいと思うようになってくれると嬉しいですね。

LGBTの人は「なぜわざわざ職場で言うんだろう」と思う人はいるようなので、LGBTであることを言うことでどう働きやすくなるのかということを話していかなければと思います。当社ではトランスジェンダーで声を上げている人がまだいない状態です。当社には制服はないので、制服の問題はないのですが、トイレや服装の問題など様々な困難があると思うので、事例をもっと調べ、何かあれば対応できるようにしたいと思います。

 

Q、他社でも、LGBTヘの取り組みを進める上で取り組めることを教えてください。

東さん:企業としてこのような取り組みをしていると話をすることで、他社にも活動が広がるといいなあと思い、様々な場所でお話をするようにしています。日系企業だとダイバーシティ推進室があったとしても、イコール女性の話になってしまいがちですが、そこを、本来のダイバーシティの推進に変えなければいけないと思っています。なぜかというと、女性の活躍を推進するには、女性に対する取り組みだけでなく、男性も含めみんなが働き方を変え、かつ多様性を受け入れるようにしないといけない。少しずつ本来のダイバーシティの考えが普及していると思いますが、まだ女性の活躍推進を優先的に取り組む傾向があると感じます。働き方改革が2番目で、3番目に外国人など、そもそも多様性に順位をつけるべきではないと考えるので、「ダイバーシティに優先順位をつけるのは、本来のダイバーシティ推進ではないですよね」と話をします。女性の活躍を推進している企業には、研修の中で女性の話をする際、「ところで性別は男女だけではないということをご存知でしたか?」とさらっとLGBTについて入れるという方法もあります。手裏剣みたいに、シュッと。(笑)LGBTに特化した研修を導入することが難しいという企業のダイバーシティ担当者の方々には、「結構この手裏剣戦法、効きますよ」とお伝えしています。当社だけで実施しても日本の社会に理解は広がらないので、社外に発信する必要性を感じ、今後もいろいろな取り組みを進めていきたいと思っています。

また、アライがもっと参加することが重要だと感じています。去年の11月にサンフランシスコで開催された「アウト&イコール」という企業のダイバーシティ担当者が集まるLGBTについての国際的なカンファレンスに参加したとき、「アライ研修」というセッションに参加しました。日常でLGBTについて誤った認識を耳にしたときに、アライだと客観的に正すことができる。LGBTの方自身は指摘し辛さもあると思いますが、アライの場合、飲み会でも、「ところでそれ、差別用語だって知ってた?」という話を客観的に言いやすいと思います。職場でカミングアウトしていないLGBTのニーズも代弁でき、LGBTについての正しい理解やLGBTが直面する困りごとを周知できるというのもアライができる大事なことだと思います。社会や職場にはLGBTでない人は92.4%もいるので、LGBTである7.6%だけが周知するよりも、アライも一緒に周知するほうがどんどん広がっていきます。また、施策を取り込むことができるような立場にある人事や、経営者などの92.4%はLGBTではないのです。この人たちがアライになることによって、施策を入れ込む確率が上がるので、アライは重要な存在だと思います。最近はアライに「自分の声の力に気づく必要があります」ということをイベントなどで伝えています。「7.6%のLGBT当事者が活躍できる職場にするには、92.4%がアライになる必要がある」ということをアライについて話す時のスローガンにしています。

北村さん:他にも、トップ・マネジメントのステートメントに入れてもらうとか、倫理規定に入れることはやはり大事ですね。

東さん:倫理規定は第一のステップですね。働きやすい環境をつくるためには、基盤になるのがやはりこの規定です。万が一、LGBTが何かしら差別をうけたときに、倫理規定の差別要項のLGBTが明文化されているということが、何かあったときは会社が守ってくれるという信頼の基盤になるので、これはまず実施したほうが良いと思います。性的指向や性同一性を明記せずとも「など」に含まれているという意見もありますが、性的指向と性同一性に関しては、存在として見えにくいからこそ、存在を認識していることを証明するために明記する必要があります。LGBTの存在を知らない人は、LGBTはいないものと考えるので、明記されていないと差別の対象として認識することすらできません。この活動をはじめた頃は、「そうはいってもこの会社にはいないですよね」という言葉を聞きました。しかし、「この会社にはいないですよね」と言うときに思い浮かべているのは、マツコデラックスさんや、IKKOさんのように、テレビに出ている女装している方であることが多く、セクシュアリティは目に見えないという認知がされていないところが難しいと思います。だからこそ、明記しないと「いないもの」とされてしまうということは、声を大にして伝えるべきだと思います。書き方はいろいろあると思いますが、LGBTについて明記することは大事だと思います。

 

Q、アライの方に向けてのメッセージをお願いします。

東さん:アライにお伝えしたいのは、アライの役割は本当に重要だということです。わたしはLGBTAのネットワークのリーダーにある日突然任命され、それまではダイバーシティのイベントにすらいかない人間だったのですが(笑)しかし、「LGBTではない自分にできることってなんだろう」と、様々なLGBTの方々に聞いて分かったことは、アライができることは本当に多いということです。LGBTの人を招いて話を聞くのももちろん大事ですが、アライの話を聞くことも大事なのではと思います。「LGBTではない自分が何かするなんておこがましい」と思っている人も多いと思いますが、LGBTではない92.4%の人がLGBTではない立場から何ができるのかを理解しないと、進みません。

ダイバーシティのなかでもLGBTが、もっとも理解が進んでいないところだと思います。だからこそ、LGBTは究極のダイバーシティ推進だと思っています。LGBTの人が働きやすい職場は様々な多様性をもった人が働きやすい職場になるとわたしは信じているので、ダイバーシティ担当者やアライにはどんどん声をあげてほしいと思います。

今日からできるスモールステップとして、自分のまわりを変えていくということがあります。例えば、同僚との飲み会でLGBTの話をするのもいいと思いますし、アライのステッカーを配って説明するのもいいと思います。わたしはよくFacebookでLGBTのニュースをシェアしています。ずっと行っていると、「ところで東さん、最近こんな投稿しているけど、前からやっていた?」、「あれなに?」と聞かれることも多くなりました。同僚のひとりが、わたしのFacebookをみていて、LGBTの意味はわからなかったようなのですがLGBTという言葉は覚えていて、ある日、新聞でLGBTの記事を見つけた時に「東さんが言っているのってこれじゃないかな」とメールをしてくれました。自分のまわりの人にだけでもいいので発信をしていくのは大事だなと思いました。

あとはもう一つ。子どもがいる保護者にLGBTについて話すことも大切だと思っています。「自分の子どもがもしLGBTだったら」と保護者の方はなかなか考える機会はないと思いますが、「子どもがLGBTである可能性が7.6%はあるんですよ」というと、自分の大事な子どものことなので、考えるようになるようです。

 

Q、LGBTの学生・就活生へメッセージをお願いします。

北村さん:学生のときにカミングアウトをして頑張ってきても、日本の会社はまだ保守的なところが多く、失望してしまう人や傷ついてしまう人も多いと思います。自分を出さなければいけないと思い過ぎず、仕事についてから、手に職をつけてから、「どんな性自認でも性的指向でも君に働いてほしい」と思われてから自分を出していくという選択肢もあると思ってほしいですね。面接時からカミングアウトすることはとても素晴らしいと思います。しかし、まず自分が何をしたいか、どういう風になっていきたいかという視点も大事にしてほしいですね。そのために、「あえて全てを語らない」ことも手段の一つだとも思いますので、例えカミングアウトできなくても、落ち込まないで欲しい。就活は大事なライフイベントの一つではありますが、それが全てではない。という心意気で、肩の力を抜いて頑張って欲しいと思います。

コニーさん:外国人からの視点でみると、日本にはReBitのような素敵な団体があるので、LGBTの学生は一人で悩むのはやめようと言いたいですね。様々な団体や支援、サポートシステムを探してほしいです。みんなサポートしてくれると思います。

 

【企業情報】

企業名:野村證券株式会社
企業概要:http://www.nomura.co.jp/introduc/company/
採用情報:http://www.nomura.co.jp/recruit/

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